物語の価値
あらゆる物語(ストーリー)の価値は比喩によるコミュニケーションを可能にすることだ。
「○○でない者が××に石を投げなさい」という表現は新約聖書の該当部分の物語を知らなければ、表現者の意図を汲み取ってその文章を理解することができない。
そういった物語を知れば知るほど、比喩として表現できることと、理解できる事が増える。
言語によるあらゆる表現は究極的に突き詰めるとすべて比喩である。
ある一つの言葉がすべての人の絶対的な共通認識として、何か一つのことを完璧に指し示すことはできない。
ウィトゲンシュタインの「言語ゲーム」という概念がある。
これは
ある事象を前にして互いがそれぞれに「これは○○ということですね」と認識合わせをして初めて意思疎通が図れるようになる
という考えで、そこでの意思疎通そのものが物事の定義そのものである、という考え方である。
そして、先ほどの「○○ということですね」のバリエーションを増やしてくれるのが物語の役割である。
最初に提示した「〜石を投げなさい」の例だと、互いに「相手の罪を責めれるほど自分は潔白なのか?という問いかけ」である認識を持って初めて意思疎通が成立する。
言葉による表現の多様性を生みだすのが物語である。
「闇落ちする」という概念もスターウォーズという物語のおかげで万人の共通認識として市民権を得ている。
普遍的な善悪の概念だってそうだ。
ゾロアスター教という宗教が持つ物語が紆余曲折を経て人々の間に根付いていった結果、ほとんどの人が無条件に善悪という概念を大雑把に共有している。
物語の数が多ければ多いほど、共有する人間が多ければ多いほど、人類は言葉によるコミュニケーションをより効果的に使いこなすことができるようになる。
あらゆる概念を創造するためのたたき台として役割をこなしてきたのが物語である。
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