< マイクロサービスの神話 | ウォーリーをさがすな >
文章量:約1700字

編集と真贋

情報は自分自身が直接体験する以外だと、他人による編集を介したものしか受け取ることができない。

編集とは全体から一部を切り取ることであり、かつ、加工することである。

人間は森羅万象をすべて把握することも表現することもできないし、人から人に伝える時点で何かしらは抜け落ち変質する。

人を経由すると、ただそれだけで「編集」された情報となる。

よって我々がメディアを通して受け取る情報はすべて「編集」されたものになる。

そして、「編集」フィルターで情報を濾過すると物事は捉えやすくなる分、情報の鮮度、質、正確性は落ちる。

以前言及したデータサイエンティストは情報の編集者とも言える。

対象のエントリで述べたように、利用する情報の取捨選択と加工のさじ加減でいかようにも表現を演出することができる。

先月の割合が30%で今月の割合が50%になっている事実を提示して「先月より増えている」と言われれば「ああ、たしかに」と勢いで頷いてしまうかもしれない。

しかし割合ではなく実数値だと先月が60で今月も60であり、全体の中の割合が変わっただけの可能性もある。

実際には変動していないのに提示する情報を操作すれば「増えている」という印象を植え付けることができてしまう。

全体の中の一部分だけであっても、それがそのまま事実として伝えられているならまだマシなほうだ。

子供の頃にした伝言ゲームを思い出してみてほしい。

最初に決めた文章から人を仲介すればするほど、どんどん元の文章から内容が変わっていってしまう。

最後の人の文章と元の文章が全然別物になっていて「ぜんぜん違うやん」などといって盛り上がっていたと思う。(優秀なチームは一字一句違わず正確に伝えきっていたけど)

人を経由すると意図をしていなくても情報の精度は落ちてしまう。

さらに意図を持った編集を経由した情報は往々にして形が歪められ、素材となる情報とは違った解釈を生むようになる。

むしろ編集を利用して自分に都合のいいような解釈を意図的に付加しようとする。

先日「ソニー、プレイステーション5予約の事前登録を開始。徳の高い順に招待、米国内のみ」というタイトルの記事がバズった。

ソニー公式のFAQを読むと「PS5予約の事前登録を開始」と「米国内のみ」はちゃんとその通りの文章が書いてある。

しかし「徳の高い順に招待」とは書いていない。

実際に書いてある文章は

Our selection is based on previous interests and PlayStation activities.

で、この文章を拡大解釈して「徳の高い順に招待」と言い切っている。

公式文章から読み取れるのは「招待する人はPSユーザーの過去の行動と関心をもとに判断する」までだ。

記事内の文章には

過去に実在のプレーヤーとして登録や購入などの行動が確認できたかでフィルターする趣旨と思われます。要するにPSに功徳を積んできたかどうか。

と書いてあり、過去に実際に購入したかどうかでフィルタリングするんじゃないか、という真っ当な予測をちゃんとしている。

しかしそれがなぜ「功徳を積んできたかどうか」に飛躍するのか。

タイトルを見ただけの人は「これまでのソニーに対する課金額が多い人からPS5予約できるのか」や「徳の高い順とはなんぞや?」といった好奇の目を持つことになる。

人からの関心を引くためにあえて「徳」という単語を使い、公式が全く言っていない「徳の高い順に招待」とまで言い切ってしまうと、もはや編集を通り越して虚偽だ。

編集された情報は意図の有無に関わらず、その情報だけを元に事実がそうであると早合点してはいけない。

自分
↑←─[編集(個人ごとの解釈)]
タイトル
↑←─[編集]
内容(2次情報)
↑←─[編集]
出典元(1次情報)
↑←─[編集]
現実

情報は実際の現実から自分に届くまでにこれだけ編集の洗礼を受けることになる。

真実に迫るためにはタイトルだけでなく内容をよく読まなければいけないし、出典(ソース)を当たらなければいけないし、最終的には自分自身の手で確認しなければいけない。

間に編集が挟まれるたびにコンテキストが消費され伝言ゲームのごとく情報が歪んでいってしまう。

自分が受け取る時点の情報は真贋すら危ういと認識しておく必要がある。

Tag: コミュニケーション