読後感
少し前に人々が消費しているのはコンテツではなくコンテキストである話を書きました。
そこから派生して読書にはいくつかの消費パターンがあることに気づきました。
まず1つはコンテンツの消費としての読書。
小説を読んで面白いと感じる体験がこれに当たります。
エンターテイメントを楽しむ行為と同類です。
次に知識を取得するための読書。
参考書や技術書などを読んで勉強する行為がこれに当たります。
ルポルタージュやノンフィクション物を読んで新しい物事を知ることもこれに当たります。
そしてもう一つ、コンテキストの消費としての読書が存在します。
これは知識習得の仮面を被ったコンテンツ消費型の読書です。
これはどういうことなのか?
読み手側は知識の習得のために読書をしますが、結果として得られるのが「分かった気になった」という読後感だけで特に知識は身につかずコンテンツを消費しただけの結果となる読書です。
読者の頭の中で起きていることは、新しい知識の習得ではなく著者の持つ世界観をコンテキストとして植え付けられているだけなのです。
ほとんどのビジネス書はこれに当たります。
なんだったら「コンテンツ消費型」であればあるほど良いビジネス書だと言っても過言ではありません。
何故かというと、純粋な知識習得型の本だと読んでもつまらないし内容が難しすぎると読者が理解できないからです。
ビジネス書も売れてなんぼの商品の一部ですからエンターテイメントとしての価値を求められます。
そこで大事なのは読者(消費者)の満足度になります。
知識をそのまま開陳するよりも小説と同じように読み手が求めるような世界観を著者が演出するほうが読みやすいし売れるのです。
読者の満足度は知識の習得度に比例しません。
どれだけ良質な情報を本に載せたとしても読みにくくて分かりにくければ読者は評価しません。
そもそも読んで理解できない本は評価できません。
例えば私が『死霊』を読んでも全く理解できないし面白くもないですが吉本隆明が読めばそれなりに理解し内容を汲み取ることができます。
さらに例えると、ホリエモンの『多動力』と網野善彦の『日本の歴史をよみなおす(全)』の2冊があった場合、ほとんどの人はホリエモンの本を高く評価すると思います。
それ以前に後者の本はほとんどの人は読みもしないでしょう。
自分は両書とも読みましたが新しい視座を与えてくれたという点で中身が優れているのは圧倒的に網野さんの本だと思います。
何を持ってして「良書」とするかは主観があるので究極的にはなんともいえないのですが、自分としては網野さんの本のほうが読み応えがありました。
ビジネス本などの薄くて読みやすい本は分かった気になれるようにできています。
しかし、古典や厚めの文庫本などは分かった気になるどころか書いてある内容が難しく、文体も読みにくいのでいまいち飲み込めません。
読み進めても頭の中で整理がつかないですし、不快な澱が頭の中に残り続けるような感覚があると思います。
そしてその不快感を残したまま特に明確な解答もなく本の内容は終わってしまいます。
自分が最近読んだ本で挙げるなら『野生の思考』のような本です。
読後感だけで評価するなら圧倒的にホリエモンの本が良いでしょう。
人々は勉強や自己研鑽という大義名分を掲げて読書をするものの、その結果得るものは娯楽としての「コンテンツの消費」なのです。
純粋な勉強はほとんどの人にとってはただの苦痛ですからコンテンツを消費して楽しく読書体験がしたくなるのはしょうがありません。
水は低きに流れるのです。
コンテキスト消費型読書の説明をするはずがビジネス書をひたすらディスる内容になってしまいましたが、その説明の途中で「分かりにくくて明確な解答のない本」が登場しました。
コンテキスト消費型には実はもう一つのパターンが存在します。
書籍の内容を自分なりに解釈して自分オリジナルのコンテキストを築き上げる読書です。
いわゆる「自分の考えを持つ」にはこのパターンの読書ができないといけません。
そういったわけで最後のパターンとして哲学型の読書があります。
これは読書の結果、アウフヘーベンを生み、自分独自の思考を身につける読書です。
コンテンツの消費か知識を習得した結果、自分の頭の中で化学反応を起こし新しい発想を得る読書です。
このブログに書き連ねていることは自分がいろんな知識や経験をもとにしていろいろ考えた結果のアウトプットです。
『野生の思考』は読みにくくて内容が難しいですが野生のプログラミングを書く衝動と思考の種を自分に与えてくれました。
こういった読んだ後で、本の内容を反芻しながらいろんなことを考えることができるのが哲学型読書になります。
最後にまとめると読後感による読書パターンは以下のように分けられます。
- コンテンツ消費型(読んで楽しい)
- 知識習得型(いわゆる勉強)
- コンテキスト消費型(分かったつもり読書)
- 哲学型(新しい思考の種としての読書)
自分が読書した後にどのパターンの読後感になっているかを意識するとあなたの読書生活がより生産的なものになるでしょう、たぶん。